今こそ注目のインバウンドビジネス!市場と5つの成功企業に学ぶ戦略

訪日外国人の急増とともに、日本のインバウンド市場が再び脚光を浴びています。2024年の訪日外国人数は過去最高の約3,687万人に達し、旅行消費額も8兆円超に拡大しました。
小売、宿泊、飲食といった幅広い業種が恩恵を受けるなか、「インバウンドビジネス」は経営者や投資家にとって重要な成長テーマの一つとなっています。
本記事では、インバウンド市場の現状を概観しつつ、先行企業5社の戦略を通じて、インバウンド需要を捉えるための視点と今後の展望を整理します。
観光庁とJNTOの統計によると、2024年の訪日外国人数の推計値は前年比47.1%増の3,686万9900人と、コロナ前の2019年実績を上回り過去最高を更新しました。
旅行消費額も8兆1395億円に達し、1人あたり消費額は約22.7万円と大きく伸びています。
国別では韓国、台湾、米国など多様な市場からの来訪者が増加し、訪問目的も観光、ビジネス、体験と多岐にわたります。
こうした中で、小売業では免税売上が回復し、宿泊・飲食業でも高単価化が進行。円安を追い風に、地方を含めた広範な経済効果が広がりつつあります。
コロナ禍を経て新たな観光ニーズが生まれており、インバウンド対応の巧拙が企業の成長を左右する重要な局面を迎えています。
急回復するインバウンド需要に対応し、先行して成果を上げている企業も登場しています。ここでは、鉄道、小売、宿泊、外食、ITの5業種から、戦略的にインバウンドビジネスを展開する企業を紹介します。
業種は異なっていても、成功企業の共通点には注目すべき要素が多く、他業界への応用可能性も高い事例と言えるでしょう。
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2024年3月期の決算では運輸事業でのインバウンド関連収入は年間294億円と見込まれ、不動産・ホテル事業においてもインバウンド収入は年間272億円まで成長しています。
JR東日本は訪日外国人向けの「JR EAST PASS(Tohoku)」を拡充し、2025年には10日間版の導入も予定しています。
地方誘客とモバイルIC導入による利便性向上を同時に進めており、持続的な需要獲得に向けた投資を強化しています。
こうした施策は単なる鉄道利用の促進にとどまらず、駅ビル・ホテルなど周辺事業の収益拡大にもつながっており、グループ全体でインバウンド需要を取り込む体制を構築しています。
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ドン・キホーテなどを運営するパン・パシフィック・インターナショナル(PPIH)は、SNSやインフルエンサーを活用した来日前プロモーションで認知を高め、免税売上は2024年6月期に過去最高の1,173億円に到達。
訪日時にしか購入できないPB商品や多国籍ニーズに応える品揃えでリピーター化を促進しています。同社のアンケート調査では免税顧客の7割がSNS経由で来店を決めているというデータもあり、効果的なSNSプロモーションを実施できていると考えられます。
24時間営業や都心一等地への出店も奏功しており、同社の「いつでも・どこでも・誰でも買える」体制が訪日客の利便性を最大化しています。
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星野リゾートはJALとの協業により、王道と穴場を組み合わせた観光ルートをSNSで発信。都市部だけでなく地方への誘客を実現しています。
特定の顧客層にターゲットを絞るのではなく、文化体験や地方の魅力を伝えることで独自のブランドを確立しています。
スタッフによる地域ガイドや、地域限定イベントの実施など、サービスの質にもこだわっており、宿泊体験全体を「旅のコンテンツ」として磨き上げています。
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外食業界では、ワタミがインバウンド向け店舗「すしの和」「築地 牛武」などを展開。すしの和では「寿司握り体験」といった日本文化を体感できる機会を提供することで、訪日外国人の需要を的確に捉えています。
経営陣は今後も円安傾向が続くと予測していて、円安やコロナ禍後の観光需要回復を背景に、インバウンド(訪日外国人観光客)戦略を経営の柱として強化することを明言しています。
従来の居酒屋業態に加えて、寿司・焼肉など訪日客に人気の和食ジャンルへの展開も進めており、ターゲットごとに業態を細分化する戦略が注目されています。
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一休は高級宿泊施設の予約サイト「一休.com」の運営に加え、レストラン予約事業に注力。訪日外国人が多言語で高級レストランを予約できる仕組みを整え、食体験分野での収益拡大を目指しています。
2024年1月には「一休.com海外」を公開し、アウトバウンド市場も視野に入れた戦略を展開しています。
日本の「おもてなし」をデジタル経由で予約できる環境を整えることで、訪日中の満足度と旅行後の再訪意欲の両方を高めています。
インバウンドビジネスの競争が激化する中で、訪日外国人旅行者のニーズを的確に捉え、持続的な関係構築を実現するには、戦略的な視点の導入が不可欠です。
以下では、成功企業の事例を踏まえながら、注目すべき5つの視点を整理します。
まず基本となるのが、多言語対応を含むコミュニケーションの整備。案内表示、メニュー、予約ページなどの翻訳精度を高めるだけでなく、文化・宗教への配慮も重要です。
例えばハラールやビーガンへの対応、チップ不要文化の説明、タトゥーに対する対応などが訪日客の安心感につながります。
訪日前の段階からブランド認知を形成することが、来店や利用につながる重要な起点となります。
SNSや旅行系インフルエンサーを活用し、訪日前の検索・検討段階で露出を確保することが不可欠です。PPIHのように、SNS経由での情報取得が来店動機の大半を占める企業もあり、国別・言語別の最適化もカギを握ります。
旅行中のストレスを減らす利便性施策も、顧客体験を左右する要素です。
キャッシュレス決済や多言語対応の予約・案内アプリ、店舗内フリーWi-Fiなどを整備することで、快適かつスムーズな体験を提供できます。
JR東日本の「Welcome Suica Mobile」導入などは、こうした顧客ニーズへの対応策といえます。
インバウンド需要を都市部から地方へと広げるには、体験型の観光商品が有効です。
星野リゾートのように、自然や伝統文化に触れる滞在型コンテンツを発信することで、旅行満足度と滞在日数を引き上げることが期待できます。
さらに体験価値の創出は、リピーター獲得や差別化にもつながります。
旅行が終わった後も、ECサイトや会員サービスを通じて関係を維持する施策が注目されています。
ドン・キホーテのように自社PB商品の越境EC展開や、アプリを活用した情報配信によって、訪日体験を起点に中長期的な関係構築へつなげる事例。
これらの戦略は、単体で機能するものではなく、連動性を持たせることで最大の効果を発揮します。インバウンド戦略は単なる集客策ではなく、企業の中長期的な経営戦略に組み込むべき重要テーマとなりつつあります。
インバウンド市場が急拡大している一方で、いくつかの深刻な課題が浮き彫りになっています。
まず、大きな課題として人手不足が挙げられます。
宿泊・飲食・交通業界では、急増する訪日客に対応できる人材が不足しており、特に多言語対応が可能なスタッフの確保が都市部でも困難な状況です。
観光庁が2023年にまとめた報告書でも、接客応対やホスピタリティに関わる教育研修の必要性が課題として記載されています。
また「オーバーツーリズム」と「地方との格差」も懸念材料です。
東京・京都などの人気観光地では、観光客が過密状態となり、住民生活や文化財保全への悪影響が懸念されています。
一方で、地方では訪日客の受け入れ体制が整っておらず、観光資源はあっても誘客が進まない地域も多く存在します。
このギャップを埋めるため、観光庁は「広域観光周遊ルート形成促進事業」や「持続可能な観光推進モデル地域事業」などを通じて地域支援を進めています。
インバウンド市場の持続的成長には、これらの課題に対応するための制度・インフラ・人材の多面的な整備が求められています。
今後のインバウンドビジネスは、単なる観光需要の取り込みにとどまらず、地域経済の持続的成長を支える基盤としての役割が期待されています。
2025年に開催予定の大阪・関西万博では、約350万人の訪日客来場が見込まれており、これを契機に関西地域を中心とした広域な観光需要の創出に「つながると考えられています。
また、同年には大阪IRの開業準備も進められており、中長期での訪日動向に影響を与える可能性が高まっています。
政策面では、政府が掲げる「観光立国推進基本計画(第4次)」(2023年3月策定)において、2030年までに訪日客6,000万人、旅行消費額15兆円という目標が示されており、今後の観光政策の方向性が明確化されています。
また、長期滞在や体験型観光の促進も注目されています。星野リゾートのように、地方の観光資源と都市間の移動を組み合わせた周遊型の体験プログラムは、旅行者の満足度を高めるとともに、滞在日数と支出の拡大に寄与します。
こうした高付加価値型の観光モデルを普及させることで、単なる観光消費ではなく、地域社会との共創を伴う新たなインバウンド戦略が求められています。
インバウンド市場は今後も構造的な成長が見込まれており、業種を問わず多様なビジネスチャンスが広がっています。
成功企業は、単なる接客対応にとどまらず、戦略的なマーケティングや地域連携、体験価値の創造を通じて、訪日客との継続的な関係を築いています。
中長期視点での投資判断と実行力が、次代の競争優位を左右するカギとなるでしょう。
今後の動向を見極めながら、実効性ある経営戦略の策定と実行が求められています。