ウエルシア・ツルハ統合の行方は?激動のドラッグストア銘柄を解説

近年、ドラッグストア業界では業界内ではM&Aや事業統合が活発化しており、大規模な連合が誕生する動きも見られます。

地域への密着を重視する企業、ヘルス&ビューティ分野の専門性を高める企業、常に低価格で商品を提供する戦略を採る企業など、それぞれの強みを活かし、多様な戦略を展開しています。

本記事では、これらの動向を踏まえ、日本のドラッグストア業界全体の戦略と特徴について概観します。

地域密着の健康ステーションを推進「ウエルシアホールディングス」

ウエルシアホールディングスは、ウエルシア関東株式会社と株式会社高田薬局が経営統合し、2008年にグローウェルホールディングス株式会社として設立された持株会社です(2012年に現社名へ変更)

ウエルシア薬局を中核に据え、医薬品や化粧品、日用品、食品などを幅広く取り扱っています。積極的なM&Aを通じて事業規模を拡大し、国内ドラッグストア業界においてトップクラスの地位を確立しました。

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処方箋を受け付ける調剤薬局の併設に注力しており、地域住民の医療・健康ニーズに応える重要な基盤となっています。

また「地域No.1の健康ステーション」を掲げ、一部店舗での深夜営業や介護サービスの提供も行い、利便性と専門性を追求した店舗運営を展開している点も特徴です。

プライベートブランド「からだWelcia」「くらしWelcia」においては、単なる価格訴求にとどまらない戦略がみられます。健康や環境に配慮した独自商品を開発・販売することで、他社との差別化を図っています。これは、ドラッグストアが地域のヘルスケアを支えるプラットフォームとしての役割を目指す同社の方向性を示すものです。

ッグストア連合体として、経営体制を構築していく」と発表しています。

業界大手ツルハホールディングスとの経営統合計画が進行中であり、この統合が実現した場合、事業規模の大きなグループとなることが想定され、同社は新たな経営体制の構築を目指す方針であると発表しています。

地域密着とDXで成長を目指す「ツルハホールディングス」

ツルハホールディングスは、1929年に北海道旭川市で創業した『鶴羽薬師堂』(後の株式会社ツルハ)を前身とし、2005年に持株会社として東京証券取引所第一部に上場した企業です

主力ブランド「ツルハドラッグ」に加え、M&Aを通じて「くすりの福太郎」や「杏林堂薬局」といった各地の有力ブランドを傘下に収め、全国規模の店舗網を構築しています

ウェルシアに次いで業界トップクラスの規模を誇り、特に発祥の地である北海道・東北エリアでは強固な基盤を築いています。さらに地域ごとに異なるブランドを展開。それぞれの特性に合わせた店舗運営を行う「地域密着型」の多ブランド戦略が大きな特徴と言えるでしょう。

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また、特定地域に集中出店するドミナント戦略により、地域内での競争優位性を高めています。プライベートブランド「くらしリズム」も展開中です。

同社は、調剤薬局の併設を積極的に進め、地域の「かかりつけ薬局」としての役割強化を図っています。近年はDXへの投資を加速。公式アプリの提供やオンライン服薬指導サービスの導入などを通じて、顧客利便性の向上と業務効率化を目指しています。

2025年現在、ウエルシアホールディングスとの経営統合計画が進行中であると伝えられています。この統合が実現した場合、国内でも有数の規模を持つドラッグストアグループとなり、業界の構図に変化をもたらす可能性があります。

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ツルハHD FY20決算:雑貨・食品売上2ケタ増、M&Aで九州強化へ 

ヘルス&ビューティ領域に強み「マツキヨココカラ&カンパニー」

マツキヨココカラ&カンパニーは、2021年にマツモトキヨシホールディングスとココカラファインという業界大手が経営統合して誕生した持株会社です。

ドラッグストア・調剤薬局のチェーン経営を行う小売事業を主力とし、傘下には全国的に知名度の高い「マツモトキヨシ」「ココカラファイン」ブランドなどを擁しています。

統合により、国内で広範な店舗ネットワークを持つ企業グループとなり、事業規模においても業界で主要な企業の一つと認識されています。

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特に、化粧品や健康食品などを扱うヘルス&ビューティ分野において高いブランド力と専門性を有している点が大きな強みと言えます。

同社は、膨大な顧客データを活用したプライベートブランド「matsukiyo」の開発に注力。「matsukiyo」傘下では、独自性の高い多様なサブブランドを展開し、他社との差別化を進めています。

他にもヘアケアPBの「MQURE」はPBにありがちな低価格を押し出したブランドではなく、オンライン髪質診断を通じて消費者一人ひとりの髪質に合わせた成分を配合。「パーソナライズシャンプー」として販売することで、差別化を図っています。

また、店舗とオンラインを融合させるOMO戦略(Online Merges with Offline)を推進し、顧客体験価値の向上を図っています。調剤事業においても、地域医療への貢献を深める取り組みが見られます。

今後の成長戦略として、PB強化、DX推進に加え、アジア市場での事業拡大を加速させている点も注目されます。「美と健康の分野でアジアNo.1」を目標に掲げ、海外店舗網の拡充やインバウンド需要の取り込み強化を図る方針です。

EDLPと食品強化で独自路線「コスモス薬品」

コスモス薬品は、1973年に宮崎県延岡市にて『宇野回天堂薬局』として創業し、1983年の有限会社設立を経て1991年に株式会社として設立された企業です

「ドラッグストアコスモス」のブランド名で、九州を地盤としながら西日本から関東エリアへと店舗網を急速に拡大させてきました。医薬品や化粧品に加え、日用雑貨、食品といった生活必需品を幅広く取り扱い、地域住民の豊かな暮らしを支えることを目指しています。

同社の最大の特徴であり強みは、「EDLP(Every Day Low Price)」戦略の徹底にあります。

特売に頼らず常に低価格で商品を提供することで、顧客からの厚い信頼を獲得し、ドラッグストアにおける顧客満足度は14年連続で1位を獲得。販促費の抑制や効率的な店舗・物流運営によるローコストオペレーションを追求しています。

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商圏人口1万人規模を対象とした「小商圏型メガドラッグストア」という独自の店舗フォーマットも際立っています。

広い売場に食品を含む生活必需品を豊富に取り揃え、ワンストップショッピングの利便性を提供し、高い集客力を維持。特に食品の売上構成比が高い点は、他の大手ドラッグストアチェーンとは一線を画す戦略と言えるでしょう。

効率経営と調剤強化で成長を目指す「サンドラッグ」

サンドラッグは、1957年に東京都世田谷区にて創業し、1965年の有限会社設立を経て1980年に株式会社として設立された企業です

主力である「サンドラッグ」ブランドのドラッグストアチェーン運営を中心に、調剤薬局、フランチャイズ事業などを展開。グループ全体ではディスカウントストア事業も有しており、複合的な事業ポートフォリオを構築しています。

ドラッグストア事業においては、業界上位の一角を占める規模を持ち、特に首都圏に強固な地盤を築いています。

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同社の際立った特徴は、「1店舗2ライン制」という独自の店舗運営システム。専門的なカウンセリング販売と効率的な店舗運営の両立を図ることで、質の高いサービス提供を目指しています。ヘルスケアやビューティケア関連商品の構成比が高めである点も特色です。

プライベートブランドとして「SUNSTYLE」などを展開し、リーズナブルな価格の商品開発にも注力。さらに、今後の成長ドライバーとしてEC事業と調剤事業の強化を明確に打ち出し、オンラインストアのシステムリニューアルや、オンライン服薬指導システムの導入などを積極的に進めています。

ドラッグストア事業で培った運営ノウハウと、EC・調剤といった分野への戦略的投資は、同社の事業展開において重要な要素です。また、グループ内のディスカウントストア事業との連携も、事業戦略の一つとして挙げられます。

調剤とトータルヘルスケアを追求「スギホールディングス」

スギホールディングスは、1976年に愛知県西尾市で創業した『スギ薬局』を前身とし、2008年に持株会社体制へ移行した企業です。

東海地方に強固な地盤を築き、医薬品、化粧品、日用品、食品などの販売に加え、創業以来注力してきた調剤薬局の運営を大きな柱としています。「トータルヘルスケア戦略」を掲げ、予防から医療、介護、生活支援まで、顧客の生涯にわたる健康をサポートすることを目指しています。

店舗では、薬剤師や管理栄養士、ビューティアドバイザーといった専門人材によるカウンセリングを重視し、顧客との長期的な関係構築を推進。プライベートブランドでは、「エスセレクト」を中心に品質や機能性にこだわった商品を開発しています。

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また、訪問調剤や訪問看護、健康相談といった地域包括ケアシステムを支えるサービス提供にも注力中。2024年には、調剤事業を中心とした総合ヘルスケア企業であるI&H株式会社をM&Aによって子会社化するなど、積極的に事業規模を拡大させています。

また中期経営計画では、事業拡大を通じた成長を目指す方針を掲げています。I&H株式会社の子会社化なども、この計画に沿った取り組みの一つと考えられます。

同社は、強みである調剤・ヘルスケア分野での事業展開を引き続き重視していく方針です。

フード&ドラッグ戦略で食品スーパー並みの品揃え「クスリのアオキHD」

「株式会社クスリのアオキホールディングスは、1869年創業の『青木二階堂薬局』(後の株式会社クスリのアオキ)を前身とし、2016年に東京証券取引所第一部に上場した持株会社です。

北陸地方を地盤に、ドラッグストア「クスリのアオキ」及び調剤薬局を全国に展開。医薬品や化粧品、日用品に加え、生鮮食品を含む食品を幅広く取り扱う「フード&ドラッグ」戦略が最大の特徴です。また、近年はM&Aを通じて食品スーパー事業も強化しています。

同社は業界内で一定のポジションを確立しており、独自のビジネスモデルを展開しています。

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その核となるのが、ドラッグストアに生鮮三品(青果・精肉・惣菜)を導入し、食品スーパー並みの品揃えを実現する「フード&ドラッグ」です。この戦略は、ワンストップでの買い物利便性を高め、顧客の来店頻度向上を目指すものとされています。

また、特定エリアへの集中出店(ドミナント戦略)により、地域での高いシェアと効率的な運営体制を確立しました。価格戦略としてはEDLPを推進し、低価格を求める顧客層の支持を集めています。

さらに調剤薬局の併設にも力を入れ、地域のかかりつけ薬局としての機能強化を目指しています。

中期経営計画では、「フード&ドラッグへの転換」「調剤併設率向上」「ドミナント化」を重点施策として推進しています。食品スーパーのM&Aも、事業戦略の一環として進められています。

地域密着とドミナント戦略で堅実成長「クリエイトSD HD」

クリエイトSDホールディングスは、1975年創業の「みどり薬局」(後の株式会社クリエイトエス・ディー)を前身とし、2009年に設立された持株会社です。

「クリエイトエス・ディー」のブランド名で、関東・東海地方を中心にドラッグストア及び調剤薬局を展開。地域に根差した事業運営を特徴としています。

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地盤である神奈川県では一定のブランド認知度を有し、店舗網を構築しています。郊外の住宅地を中心としたエリアへの集中出店(ドミナント戦略)や、地域住民との関係性を重視した店舗運営が、同社の特徴として挙げられます。これらの戦略を通じて、効率的な経営と顧客基盤の安定化を目指しているとされています。

店舗では、医薬品や化粧品、日用品、食品などを幅広く取り扱うほか、調剤薬局の併設を積極的に推進。「ワンストップ・ショートタイムショッピング」での利便性向上と地域医療への貢献を目指す姿勢が見られます。

また、顧客の声や専門家の知見を活かしたプライベートブランド商品の開発にも力を入れ、他社との差別化を図っています。

同社は、急拡大よりも地盤エリアでのシェア拡大と収益性向上を重視する戦略をとっており、事業基盤の安定化に注力しています。