変革期のビール市場:主要銘柄と企業の未来戦略を探る

サッポロホールディングス

ビール市場は今、健康志向の高まり、ライフスタイルの多様化、そしてサステナビリティへの要求といった大きな変化の波に直面しています。この変革期において、主要なビール関連企業は、それぞれの強みを活かし、未来に向けた独自の戦略を打ち出しています。

ある大手メーカーは、長年培った発酵・バイオテクノロジーを核に、食から医・ヘルスサイエンスへと事業領域を拡大。また、ブランドの「物語」と心を動かす「体験」を重視し、新たなファン層の獲得を目指すメーカーも見られます。さらに、「おいしさ」とサステナビリティを両輪に、技術革新とグローバル展開を加速させる大手も存在します。

本記事では、これら企業の挑戦を深掘りし、伝統と革新が交差するビール業界の未来像を探ります。

ノンアル展開だけでなく農業資材への応用も「アサヒグループホールディングス」

アサヒグループホールディングスは、スーパードライなどを取り扱う既存事業の拡大に加えて、新市場拡大に向けてノンアルコール・低アルコール飲料の開発を進めています。

これは健康志向の高まりや飲酒をしない選択をするなど、多様な飲用ニーズに応えるだけでなく、不適切な飲酒の撲滅という社会課題への貢献も意図した動きです。また、環境負荷低減への関心の高まりを受け、ラベルレスボトルのような環境に配慮した商品の提供も進めています。

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さらに注目されるのは、ビール製造工程から生まれる副産物を活用した技術革新です。代表的な例として、ビール酵母の細胞壁を加工した農業資材(肥料原料)の開発が挙げられます。この資材は、農作物の品質向上や収穫量増加に加え、農薬使用量の低減にも繋がる可能性があります。

グループ会社を通じて販売されるこの取り組みは、サーキュラーエコノミーを体現する事例と言えるでしょう。

これらの事業活動は、日本、欧州、オセアニア、東南アジアの4極体制によるグローバルな基盤、多様な人材が活躍する組織文化、そして統合的なリスクマネジメント体制によって支えられています。「おいしさ」の追求と、地球や社会の持続可能性への貢献。この二つを両輪として、アサヒグループは独自の価値創造を目指しています。

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発酵・バイオ技術を軸に、食・医・健康を繋ぐ「キリンホールディングス」

キリンホールディングスは、長年のビール事業で培った「発酵・バイオテクノロジー」を中核技術として位置づけ、事業を展開しています。

その領域は酒類や清涼飲料といった「食」に留まらず、「ヘルスサイエンス」、さらには「医」の分野にまで及び、これら3つの軸で事業を展開するユニークなポートフォリオを構築しています。

同社のビール事業は、グループ全体の技術基盤を支える重要な役割を担います。ビール醸造における発酵や培養の研究開発は、グループの強みそのもの。

例えば、ビール酵母による代謝技術や、発酵タンクでの細胞培養技術は、バイオ医薬品の製造プロセスや、乳酸菌などの機能性素材開発にも応用されています。このように、一つの事業で培われた知見が、他の領域での新たな価値創造へと繋がるサイクルが、同社の特徴と言えるでしょう。

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また食の領域においてもビール事業で培われた技術基盤を活かし、消費者のニーズに応える多様な商品やサービスの開発が行われています。発酵技術は、製品の風味や機能性を高める上で重要な役割を果たしており、新たな価値提案に繋がる研究開発が進められています。

同社は、こうした事業活動を支える基盤として、多様な専門性を持つ人財の育成に力を入れています。発酵・バイオテクノロジーという独自の強みを活かし、食・医・ヘルスサイエンスという広範な領域で、社会のニーズに応えようとする取り組みが注目されます。

ブランド構築でファン獲得を狙う「サッポロホールディングス」

サッポログループは、国内酒類事業においては、ビール市場全体の活性化と新規顧客の獲得を目指す方針を打ち出し、独自のマーケティング戦略を推進する姿勢が鮮明です。

そのアプローチは、単なる商品の機能訴求に留まりません。ブランドが持つ独自の「個性」や「物語」、そして長年培ってきた「資産」を最大限に活かし、ブランドの「姿勢」を明確に打ち出すことを重視しています。

そのモデルケースとして位置付けられるのが「サッポロ生ビール黒ラベル」です。広告展開に加え、「黒ラベル THE BAR」のような体験の場を設けるなど、顧客との多様な接点を創出。ブランドの世界観を共有し、心を動かす体験を提供することで、ファンの獲得と育成を促進しています。

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この戦略の背景には、国内市場においてビールへの関心が薄い層が多数存在するとの分析があります。同社は、こうした層に向けてブランドの魅力を伝え、新たな顧客を獲得することを目指します。

サッポログループは、こうしたマーケティング活動を支えるため、リスク管理体制やコーポレート・ガバナンスの強化にも継続的に取り組んでいます。独自のブランド価値と体験創出を通じて、変化する市場環境の中で持続的な価値提供を図る考えです。

即配物流を軸に販売プラットフォームへ「カクヤスグループ」

カクヤスグループは、「なんでも酒やカクヤス」を旗艦ブランドとして、首都圏を中心に酒類販売事業を展開しています。同社の最大の特徴であり競争力の源泉となっているのが、自社で構築したきめ細やかな物流ネットワークです。

同社はこのネットワークを活用し、注文から最短で即日配達を行う「クイックデリバリー」サービスを提供。飲食店と家庭向けの両方にこの即配機能によって、独自のポジションを築いています。

特に、保管スペースが限られ、多種多様な酒類を必要とする小規模個人飲食店にとって、必要な時に必要な量を迅速に届けられるこのサービスは、重要な役割を果たしていると考えられます。

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取り扱うビールも、主要メーカーの定番ブランドから国内外のクラフトビール、ノンアルコールビールに至るまで、幅広いニーズに対応する品揃えです。

国内の酒類市場は、ライフスタイルの変化などにより縮小傾向にあるとされていますが、カクヤスグループは、この強力な物流基盤をさらに進化させることで、新たな成長を目指しています。その核心となるのが、「販売プラットフォーム」構想です。

これは、既存の酒類販売で培った受注から配達、決済までを一貫して行うシステムと物流網を、よりオープンなものへと発展させる取り組みです。将来的には、自社の商品だけでなく、提携する他社の商品(食材など、酒類以外のカテゴリも含む)もこのプラットフォーム上で取り扱い、配達する計画です。さらに、自社の配送網を他社の荷物配送にも活用することで、物流インフラとしての価値を高めることも視野に入れています。

「物流」という強みを核に、単なる酒類販売店から、地域の多様なニーズに応える販売・配送プラットフォームへと変革を図るカクヤスグループ。その独自の取り組みは、今後の事業展開において注目されます。

>カクヤス・佐藤順一社長インタビュー「私たちは物流で差別化する会社」

専門店としての魅力を高める「やまやグループ」

やまやグループは、酒類・食品専門店の「酒のやまや」を全国に展開する「酒販事業」と、「外食事業」を二つの柱として事業を運営しています。

ビールをはじめとする多種多様な酒類は、主にこの酒販事業において取り扱われており、全国30都府県以上に広がる店舗網を通じて、消費者に届けられています。

同グループの強みは、「専門店」としての深い知見と、それに基づいた商品展開にあります。世界の美味しいお酒や食品を直接見せて提供できるお店をテーマとして、国内外から厳選された商品を幅広くラインナップ。単に商品を並べるだけでなく、顧客の視点に立ち、ニーズに合った魅力的な店舗づくりとサービス拡充に注力しています。

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その取り組みは多岐にわたります。例えば、店内商品をギフトや手土産として活用しやすくする提案や、災害時にも役立つ「ローリングストック」としての酒類・食品の備蓄を推進。

また、国際的なスポーツイベントに合わせたフェアを開催したり、大阪・関西万博に合わせた「やまや万博」と称する企画で各地の「おいしいもの」を発掘・提供したりと、時流を捉えた積極的な仕掛けが特徴です。

国内の酒類市場は、消費者の嗜好の変化や人口動態の影響を受け、全体としては厳しい環境にあるとされています。特にビール類の需要動向は変化しており、缶チューハイや缶ハイボールなどのRTD(Ready to Drink)が支持を集める傾向も見られます。

このような状況下で、やまやグループは「専門店」としての価値をさらに深化させることで、顧客との接点を強化し、差別化を図る戦略です。

豊富な品揃えと専門知識、そして全国の店舗網を活かした企画力を武器に、やまやグループは単なる小売にとどまらず、豊かな食文化やライフスタイルを提案する企業としての役割を目指しています。