原子力発電サプライチェーンと関連銘柄7社:革新炉や低炭素にむけた取り組みとは

高田工業所

エネルギー安全保障とカーボンニュートラルの実現が世界で注目される中、原子力発電の役割が改めて注目されています。

日本の原子力関連産業界では、長年にわたり蓄積された高度な専門技術と豊富な経験を駆使し、このエネルギー源の安全性向上と持続可能な利用に向けた多角的な取り組みが加速しています。

本記事では、このような技術革新に挑む日本の主要な上場企業群に着目。各社が有する独自の先端技術、安全性と信頼性を追求する厳格な品質管理体制、そして未来のエネルギー社会構築に向けた取り組みを紹介していきます。

革新炉開発で原子力の未来を目指す「三菱重工業」

三菱重工業の原子力関連事業は、カーボンフリーで安定した電力供給源としての原子力の役割を重視し、国内プラントの安全運転支援から燃料サイクルの確立、そして革新的な次世代原子炉の開発までを一貫して手掛けています。

国内のPWR(加圧水型軽水炉)プラントの再稼働・保守・安定運転を支援。特に特定重大事故等対処施設(特重施設)については、全てのPWRプラントを三菱重工が対応しています。

同社の未来の原子力利用に向けた取り組みの一つとして、革新炉開発があります。2030年代半ばの実用化を目標とする革新軽水炉「SRZ-1200」は、経済性と安全性の両立を追求する開発が進められています。

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さらに、国の重要プロジェクトとして位置づけられている、ウラン資源の有効活用に繋がるとされる「高速炉」や、カーボンフリー水素の大量製造に繋がる可能性がある「高温ガス炉」の実証炉開発を中核企業の一つとして推進しています

海外市場へも、原子炉容器や蒸気発生器といった主要機器を納入しています。核融合(ITERプロジェクト参加)の研究開発にも取り組み、将来の多様なエネルギーニーズへの対応を目指した活動を行っています。

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原子力関連の重要部材を製造する「日本製鋼所」

日本製鋼所グループは、主要事業の一つ「素形材・エンジニアリング事業」を通じ、原子力発電に使われる部材を供給しています。

供給する原子力関連製品には、発電機用ロータシャフト、原子炉圧力容器を構成する部品のひとつであるシェルフランジなど、高度な製造技術と品質管理が求められる特殊な鋼製品が含まれます。

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同社は、過去に子会社で製品検査に関する不適切行為が確認されたことがあり、企業の信頼性に関わる品質管理体制の強化も継続的な課題です。

外部調査の結果、製品品質への影響は確認されていませんが、グループ全体で再発防止策を実行し、品質保証体制の改善を進めています。

今後の事業展開における取り組みの一つとして、2026年4月を目途に進められている子会社「日本製鋼所M&E」の吸収合併計画があります。

この統合は、低炭素社会実現に向けた原子力発電用素形材製品への開発ニーズの高まりに対応し、事業の一体運営による生産効率の向上や経営資源の見直しを図ることを目的としています。

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再稼働や安全対策工事を扱う「太平電業」

太平電業は、各種プラントの建設・メンテナンスを手掛ける総合プラントエンジニアリング企業です。

エネルギーインフラ整備に取り組む中、近年は原子力発電所の再稼働や安全対策工事に対応しており、その専門技術を原子力エネルギーの安全な利用に関連する業務に活用しています。

同社は、原子力発電設備の建設工事(据付・改造)、保守・メンテナンス、安全対策工事、さらには解体・廃止措置に至るまで、施設のライフサイクルにわたるサービスを提供。

特に再稼働に向けた安全対策工事では、これまでの実績に基づき、定期点検や保守を通じたプラントの安定稼働に向けた取り組みに注力しています。

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太平電業は、長年培った経験と技術、そして独自に開発してきた技術・工法や開発品を有しており、各種プラント工事における施工の信頼性向上に努めています。

また、専門技能者と同等の施工力を発揮できる多様な機械設備の開発も進めており、これらの技術は原子力施設における建設、保守、廃止措置作業においても応用されています。

国内外で原子力の役割が見直され、関連需要が高まる状況下で、太平電業はこれに対応する事業展開を進めています。長年培った技術力と安全管理体制を基盤に、エネルギーの安定供給と環境負荷低減という社会課題の解決に向けた取り組みを行っています。

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超高熱からマイナス160℃まで対応の特殊断熱「明星工業」

明星工業は、工業設備の熱絶縁工事を主力とする専門企業です。

原子力発電プラントでは、施設特有の放射線環境などに対応するため、一般的な保温技術に加え、放射能汚染防止や放射線遮蔽といった特殊な機能が求められます。同社はこれらに応える高度な専門技術と豊富な実績を有しています。

同社の原子力向け主要技術・製品には、安全性と効率性を高める特殊な設計が施されています。

例えば、放射線遮蔽機能を持つ特殊な金属保温材や、着脱が容易でメンテナンス性に優れた製品を自社生産しています。中でも発電所タービン向けの「カプセル保温材」は、迅速な着脱と廃棄物抑制効果で高く評価されています。

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また、原子力施設の換気空調ダクトなどに用いられる非金属製伸縮継手「スターベローズ」は、熱膨張や振動を吸収する機能があり、施設の安定稼働に関わっています。この製品は、多様なニーズに対応できる点も特徴とされています。

明星工業の事業は、原子力発電所の建設・メンテナンス時の断熱工事に加え、廃止措置(デコミッショニング)関連工事にも及び、プラントのライフサイクルを通じた関わりがあります。

同社の競争力は、超高温からマイナス160℃の超低温まで対応可能な幅広い断熱技術(特に超低温技術は国内トップレベル)に支えられています。

また、特殊な金属保温材などを自社工場で品質管理のもと生産。断熱関連の材料・工法を研究開発し、次世代エネルギー対応技術への投資も積極的に行っています。

明星工業は、これらの専門技術を核に、原子力エネルギーの安全かつ安定的な利用に関連する事業を目指しています。

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再稼働工事や廃炉作業を推進する「東京エネシス」

東京エネシスは、原子力発電所の再稼働に向けた工事への対応と、将来を見据えた技術開発を両輪に、積極的な事業展開を進めています。

同社は現在、各地で計画される原子力発電所の再稼働プロジェクトに対応しています。再稼働に必要な各種工事を通じて、電力の安定供給とエネルギー安全保障に関連する業務を行い、実績を活かしてプロジェクトを推進しています。

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また、原子力分野における技術開発も重視しており、特に福島第一原子力発電所の廃炉作業支援を目的とした遠隔操作ロボットの開発はその象徴です。

高放射線量下という過酷な環境での作業課題に対し、同社は原子力本部に専門組織「ロボット開発推進グループ」を設置し、安全かつ確実に作業を遂行するためのロボット技術の開発を強化しています。この取り組みは、廃炉作業の安全性向上と効率化を目的としています。

東京エネシスは、原子力分野での事業と技術開発を進めています。再稼働支援という現在のニーズへの対応に加え、廃炉という将来の課題解決に向けた取り組みも行っています。

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“熱と計測”技術で原子力の最先端を拓く「助川電気工業」

助川電気工業は、「熱と計測」を核とした専門技術を保有し、エネルギー関連事業などを展開しています。

軽水炉から高速炉、さらには未来のエネルギーとして期待される核融合まで、広範な原子力分野に対応。独自開発品を含む多様な機器の提供や、システムとしての提案も行っています。

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近年、研究機関向けの原子力関連製品や核融合エネルギー開発関連製品の需要が増加傾向にあります。同社はこれらの分野で製品提供を行っています。

特に高速炉や核融合炉では、高温の液体金属(ナトリウムやリチウム鉛など)を扱うため、その精密な取り扱いや計測・制御が重要となります。

助川電気工業は、ナトリウム用電磁ポンプや、各種計測・制御機器を開発・提供。最近では、核融合炉の重要部品である液体金属ブランケットの実証試験用装置「GALOP」を株式会社Helical Fusion向けに製作するなど、核融合炉実現に向けた重要プロジェクトにも深く関与しています。

助川電気工業は、「熱と計測」に関する長年の知見とシステムエンジニアリング能力を活かし、原子力分野における多様なニーズに対応する製品・技術開発を行っています。核融合や高速炉など次世代エネルギー技術への取り組みは、エネルギー問題の解決に繋がる可能性があるとされる分野です。

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原子炉の安定維持に貢献「高田工業所」

高田工業所は、多岐にわたる産業でプラントの設計からメンテナンスまでを一貫して手掛ける総合プラントエンジニアリング企業です。

その経験と技術は、厳格な品質・安全管理が求められる原子力分野にも活かされ、既設原子力プラントの経年劣化対策や新規制基準対応として、診断から改善まで専門的な保全技術を提供し、安定供給と安全性維持に関わっています。

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同社は原子力プラント保全において先進的な技術を展開。微生物による配管腐食(MIC)に対して、専門的な解析技術で対応。大口径ライニング管の更新工事では、3Dレーザー計測と自社工場での製作を連携させ、高品質と工期短縮を実現しています。

さらに、原子炉格納容器の特別点検では、遠隔操作カメラや走行ロボットなどの調査装置を駆使して精密な点検を行います。

これらの高度な専門技術は、設計段階からの3次元CAD活用による効率化、各種法令に対応した高品質な溶接技術、そして充実した教育体制による人材育成に支えられています。

近年では、2025年3月に日揮株式会社との資本業務提携を発表し、施工対応力の強化を図るとしています。

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